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≪ビジネス/ものづくりお役立ち市場 マガジン  vol. 007 ≫


6 先行リサーチシナリオ

      6.1.先行リサーチシナリオ(第28回) 2017年号

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

Post truth(ポスト・トゥルース)という英単語を、”Oxford English Dictionary”は、昨2016年を象徴する英単語として選び、同辞書に登録した。Post modernにならって、漢語に直訳すれば「脱真実の時代」、口語訳すれば「客観的な真実が無視される時代」という意味になる。たしかに現代の社会や経済や政治も、この「post truth」そのものである。ネット上ではツイットが炎上したり、アメリカの大統領選挙、EUにおける難民問題、英国におけるEU離脱や日本の国会論議、東京都の卸売市場問題も、昨今私たちが日常的に接している情報は少なからず「客観的な真実が無視されるpost truth」の意味合いを含んでいる。とくにインターネット上の情報には、大量の客観的な真実が無視された質の低いもの、言語障壁や価値観・文化的差異等の相互理解障害をもたらす情報が多く混在している。しかも現在は、スマートフォンなどで四六時中情報を入手するようになり、ネット依存を深める人が増えた。「いいね」とか「もっと知りたい」などの対応が、単純にビッグデータなどとしてカウントされ、それを単純に、大量のデータから従来にない知見を得るというビッグデータが人々の関心・興味・ニーズを表わす統計的真実であると勘違いさせるネット情報が社会に与える影響はますます大きくなっている。

  

そういう情報環境の中で先行リサーチを行うには、しっかりとしたリサーチシナリオが必要だ。しかし、post truthもそう悲観することもない。なぜばら、post truthは、経済、社会や政治の領域に多く現れ、自然科学やテクノロジーの世界には稀にしか現れないように見受けられるからである。たしかに、マスクされたニーズ、エマージングなニーズは一層解りにくくなって来るであろう。

  

2016年は、もう一つ顕著で重要なできごとを見せてくれた。それは、AI・人工知能のブームと呼んでも良い現象である。AI ; Artificial Intelligenceという概念が登場したのは、1956年であったとされている。以来、AIは、そのテクノロジーのブームを3回経験して来た。

第1回のブームは、推論、探索、迷路、パズルの解を求めたり、数学の定理を証明したりすることに熱中していた。時期は1956年から1960年までの時期であった。この流れのAIは、以前から在った技術を、コンピュータを使ってArtificialに仕上げたというものに過ぎなかった。IBMの人工知能ワトソンが、クイズの世界チャンピオンに勝ったとか、自動運転の車の実験、2002年になるが将棋の電王戦でコンピュータがプロ棋士に勝ったという。

第2回のブームは、1980年代におこり、知識処理を主体とした、医療診断のエキスパートシステムや有機化合物の同定に利用された。過去に経験した高度知識を、有効に再利用していることであり、産業セクターでは専用のエキスパートシステムが活躍することになり、ブームは去った。  
  第3回のAIブームは、現在進行中のもので、機械学習とディープラーニングと呼ばれるテクノロジーを組み合わせたものである。この二つのテクノロジーを組み合わせて、ロボットや自動運行システムのような、第2、第3のテクノロジーを創り出そうとしているのが今進行中のブームである。

  

機械学習は1959年頃から提案が始まったとされるが、当初は人間が自然に行っている学習能力と同様の機能をコンピュータで実現しようとする技術・手法の研究として始まった。しかし、センサやデータベースなどから、多数のサンプルデータ集合を入力して解析を行い、そのデータから有用な法則、ルール、さまざまな特徴知識の表現、判断基準などを抽出しようとすると、データから特徴量を導き出し、モデルを生成する能力は人間だけがもちあわせている能力らしいことに気が憑いた。2007年、ディープラーニングとして、人間がモデル化する行為そのものをコンピュータによって自動化しようとする挑戦が始まった。

  

例えば、ハウス栽培における自動収穫ロボットを作ろうとしても、イメージセンサーで正確な画像を収集しても、それは大量のデジタルデータを生成しているだけで、何が収穫物なのか、収穫物が苺なのか、胡瓜なのか、トマトなのか、収穫に適した熟成度のものかはコンピュータには判別ができない。特定収穫物の自動収穫ロボットを想定するなら、サンプリングによって「おいしい」ゴールドデバイスを採集し、そのサンプルが提示する、可視光だけでなく、紫外線、赤外線領域まで含めた視覚情報の確率分布と、熟成度を表わす糖度や酸度、ミネラル類の濃度データの確率分布を基準データベース化したものを外挿してやれば良いであろう。適度に収穫生産性を高める基準の生成も、例えば、収穫するか、翌日収穫にするか、「うらなり」として廃棄するかなどの判定基準は、経験値を人為的に外挿するほうが良いであろう。なにもディープラーニングによって、大量のデータと格闘する必要はないであろう。

しかし、品種改良によって「超おいしい」新種を開発しようとしているときには、ディープラーニングを活用する局面があるであろう。何が壁を破る突破口か、何がハードルを越える方法かを探索する場合、ディープラーニングのパラダイムは非常に有用であろう。

先行リサーチシナリオを作成するとき、ディープラーニングのパラダイムを参考にすることは非常に有益であると思う。ディープラーニングのことをもっと良く知りたい方には、松尾 豊著 “人工知能は人間を超えるか” (角川EPBU選書)、細野秀雄・松尾 豊・関山和秀・唐津治夢著 “超創造科学”(東京化学同人 “科学のとびらシリーズ61”)などの一読をお勧めしたい。

                                            つづく

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      6.2.先行リサーチシナリオを描く(2017年第29回)   

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先行リサーチシナリオを描くのに、AIは何らかの役に立つのだろうか。

シナリオを描くためには、人間のもつ創造性に勝る、役に立つAIツールなどというものはない。そのツールが何らかの役に立つレベルに到達したことが立証される以前に、狙った先行テクノロジーのほうが実現しているのが常である。にもかかわらず、古今の有名シンクタンクや研究機関では、コンピュータを活用した評価ツールの類いがいくつも作られた。それ等のなかには、先行リサーチシナリオを自己評価するうえで役にたつものもある。評価手法の根底には、機械学習のなかから芽生えた数量化理論や多変量解析の手法を上手に活用しようとする理念が宿っている。先行リサーチをやろうとしたとき、評価手法よりも先に必要なツールは、専門分野の論文検索エンジンである。なかでもCitation index(引用索引)は、ある論文が、誰によって、いつ、どのように引用されたがわかり、研究の流れが良く解るものであるが、安価でない購読料がかかる。

  そもそも、何故にテクノロジーの先行リサーチが必要かという問いに立ち戻って考えるとき、その理由には、以下のものごとに見通しがある場合にのみ、CEOは決定できるということが考えられる。

  1. その新商品・新事業を立ち上げるための核心となる未踏テクノロジーを必要とするエマージングな市場ニーズがあるというが、本当に在るのか。

  2. その核心となる未踏テクノロジーと要素未踏テクノロジーを開発できる成功確率の 見通しはどうか。どのような新しいアイデアを想定しているか。

  3. 先行リサーチの所用期間と人員を「人・日」で示せるか。

  4. エマージングニーズの高まりにミートする開発計画(テクノロジーリスク克服の見 通し)、マーケティングリスク克服の見通しをベースにした事業計画をいつまでに 策定するか。

先行リサーチの狙いは、最小の費用で、新規開発プロジェクトの社内認知を獲得することすることである。したがって、原則としてペーパーリサーチによるものとし、実験は含めない。先行リサーチ基金を、CEO-SMOのもとに設け、先行リサーチプロジェクトメンバーの国内外の出張旅費、交際費、学協会等参加費、資料購入費、プロジェクト手当(給与に振替)、等に当てる。当該プロジェクトに補助金が交付されたとき、会社が賞金を取得した時は、基金に繰り入れる。

  

先行リサーチプランは、なるべく、シナリオ記述の形式をとり、決定木(けっていぎ)(decision tree)と呼ばれているAIの機械学習の手法を援用することを推奨したい。  シナリオ記述の方法は、今日でも広く用いられている方法で、元を探れば、第二次大戦末期に、連合軍がノルマンディー上陸を行ったDデイを起点に、全ヨーロッパで全面反攻作戦を展開したときに用いられた。連合軍といえば、アメリカとイギリスだけでなく、ポーランド空軍の一部、ソ連、ユーゴ、それに各国の現地抵抗勢力との連携を図る必要から、米軍主力がエルベ河の線に到達するまでの作戦計画を映画のシナリオになぞらえて記述し、各国語に翻訳して配布したとされる。戦後、退役したアメリカの将軍達が、戦後経済の再構築のために産業界に再就職し、コングロマリットを立ち上げたり、東西冷戦下の新たな軍需産業の強化のために、シナリオ記述の方法を活用して成果を上げたため、ビジネス界で一機に有名になった。新しい市場や技術に明るくない投資家や銀行の支持を得るうえで大いに役立った。

新商品開発と新事業展開には、社内の全部門の支持と協力が必用である。とくに財務、人事、調達、生産技術など、市場の変化と先端技術の動向に敏感でない部門に敏感になってもらって、成功確率への支持と協力を得るためには、開発の初期段階から目的と目標を明らかにした知識と情報の共有が欠かせない。そのために、先に掲げた四点をシナリオ記述の方法で描いて、知識の共有化を図るのが望ましい。

  

さらに、核心となる未踏テクノロジーと要素未踏テクノロジーの何を開発するかという、開発の主題を階層化し、ツリー構造で関連性と重要度を図示することをお薦めしたい。この手法はrelevance tree method(関連樹木法)と呼ばれ、東西冷戦化の1970年、米国防総省の高等学術研究局(DARPA)が「ソ連に対して、決定的に優位な国防科学技術を築くために何をなすべきか」という大統領の諮問に応えて、開発ミッションを設定したことがあり、そのときHonneywell社の協力で開発し、大きな成果を上げた手法である。わが国では、日本開発工学会、日本科学技術振興機構が研究委員会を設けて、この手法の簡略化と普及に努めていた。私もこの委員会に参加し、のちにその概略と事例をまとめたものを、当CCKの部会で発表したことがある。

機械学習における決定木は、データマイニングなどにおいて複雑大量のデータを、簡便な構造に整理しようとするものであるが、関連樹木は、主題木(subject tree)もしくはミッションツリー(mission tree)であり、各階層別に、たとえばシステムレベル、サブシステムレベル、部品レベル、加工技術レベルなどに分け、プロジェクトメンバー全員で議論しながら、開発すべき主題に欠落が無いように、構造的な関係性と重要度を明示することが目的である。

 先行リサーチは、長くても1年で纏めるべきである。決定は、採用、継続リサーチ、不採用とする。

                                            つづく

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      6.3.先行リサーチシナリオから実施計画へのとりかかり(2017年第30回)   

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先行リサーチの狙いは、最小の費用で、新規開発プロジェクトの社内認知を獲得することである。

  1. その新商品・新事業を立ち上げるための核心となる未踏テクノロジーを必要とする エマージングな市場ニーズがあるというが、本当に在るのか。
  2. その核心となる未踏テクノロジーと要素未踏テクノロジーを開発できる成功確率の見通しはどうか。どのような新しいアイデア(リサーチクエスチョン)を想定しているか。
  3. 先行リサーチの所用期間と人員を「人・日」で示せるか。
  4. エマージングニーズの高まりにミートする開発計画(テクノロジーリスク克服の見通し)、マーケティングリスク克服の見通しをベースにした事業計画をいつまでに策定するか。
である。先行リサーチの最終目標は、当該主題を実施に移す計画化に繋いで行くことにある。「はじめにニーズありき」なのだから、エマージングニーズ、エマージングな市場の概略をまとめ、どういう突破口的・未踏テクノロジーの開発が必要か、リサーチクエスチョンの核心は何かを明らかにしつつ、時系列上に、マーケティングリスクとテクノロジーリスクに挑戦する目論みを明示しなければならない。

  

これ等は、CEOやCTOやSMOが、いくらそうありたいと願ってもできることではない。CEOにできることは、彼に許されたコーポレイトガバナンスの権限を活かして、自らが動かしている投資キャッシュフロー全体の1 %を、先行リサーチの実行に当てる仕組みを創ることである。この仕組みこそCEOのブレーントラストである。1%は、けじめ・目安であって2%であってもよい。若いテクノロジストを育てるには、砂場遊びのような、一見遊びにしか見えない行為の中で、創造性や新規アイデア追求の能力を自己開発させることが、しばしば重要である。勉強、研究、自己研鑽の仕方を獲得する砂場遊びが必要なのである。しかし、CEOが自ら砂場遊びをやることや、トップに対して従順な者を振り回さないためのけじめが、1〜2%であろう。

私の持論は、CEOはテクノロジストとしての業績のある人で、エマージングな市場ニーズと突破口的な未踏テクノロジーを理解できる人でなければ勤まらないということで、本稿の第22回でも述べたことである。ブレーントラストの役割は、賢いCEOをより一層賢くし、自社の市場地位を揺るぎないものとするための投資デシジョンを時機を逸せずに行うために必要な知識を提供することにある。

テクノロジーというものは、実験に成功し、プロトタイプの試作に成功し、初期の目的、目標が実現可能のものであることを立証しなければ、使い物にはならない。エマージングニーズをキャッチアップする未踏テクノロジーの立証には困難とリスクが伴う。そのためのPDCAサイクルは、先行リサーチのフェーズから開始せねばならない。CEOは、早い時期から、上図に示したような投資キャッシュフローが必要なことを、CFOに伝え、投資戦略、財務キャッシュフロ−を準備してもらわなければならない。そのため、CEOのブレーントラストメンバーには、早い時期から財務関係のメンバーに入ってもらうことが肝要である。

市場ニーズとテクノロジーとの関連性は、以下の4累計として捉える。

  1. 新規ニーズ(市場)に対応するため、突破口的・未踏テクノロジーの開発が必要な場合。。
  2. 新規ニーズ(市場)に対応するため、既存テクノロジーによる追加的、補完的な開発が必要な場合。。
  3. 既存市場の地位を確保するために、突破口的・未踏テクノロジーの開発が必要な場合。。
  4. . 既存市場の地位を確保するために、既存テクノロジーによる追加的、補完的な開発が必要な場合。。
市場もテクノロジーも、いわば生き物であり、つねに変化し、進化し続けている。ここで、新規ニーズとは、近い将来にメジャーなニーズとしてエマージ(勃興する、立ち上がる)してドミナント(支配的)な市場を形成することを予知させてくれるニーズを指す。新規ニーズは、期待されながら、なかなかその実体を現わさない。

CEOのブレーントラストが情熱を傾けてあたらなければならないのは、うえの第1類型にあたるものである。ある企業の主力商品の、ある年の年間の売上が1000億円で、その業界で第一位の地位にあったとしよう。しかし、この商品は10年後においても第一位で、1000億円の売上を維持し続けていることは殆どない。極端な場合、この1000億円の市場が消滅してしまうことすらある。とくに、先端テクノロジーを用いる産業セグメントや大気浄化法のような環境規制の厳格な産業セグメントで、そういう市場の変化が激しく生じる。そういう市場に立脚している企業は、10年後の新市場で第一位のポジションに立っていられる努力を、今日スタートしなければならない。そうしなければ、自社の命運は尽きるといっても過言ではない。

  

もちろんエマージングな市場だけでなく、既存の市場においても市場変化は絶え間なく生じる。さらに、市場というものは現実には非常に複雑なニーズの構造をもっており、上記の第3、第4の類型や第2類型のように、自社の強いテクノロジーで新市場を開拓したり、既存市場の変化に対応しなければならないような局面に立つことはしばしばある。この2、3、4の類型は、現在において自社は強みを発揮できる筈であり、先行リサーチを含めて、開発プロジェクトを開始するために必要な社内資源はCTOのマネジメント責任の範囲のなかにある。

したがって、プロジェクト化と投資キャッシュフローの予算化は、CTOのマネジメントのもとに発議され、決定が行われるようにしなければならない。これら四つの類型に分けるのは、投資キャッシュフローの時系列モデルが、それぞれ特徴的な傾向パターンを示すからである。いずれにしても、マーケティングリスクとテクノロジーリスク克服に挑戦するかしないか、いかに挑戦して、自社の将来をいかに予定するかを決定できる明示的な決定機構をつくることである。肝腎なのは、決定機構の運用の仕方にある。第2、第3、第4類型の開発主題は、CTOが決定し、CEO、CFO、SMOその他の執行役員が支持する。

第1類型はCEOが決定し、CFO、SMOその他の執行役員が支持できる運営を図るべきである。CTOに関しては、当該事業グループの新テクノロジー開発をリードできる新たなCTOを任命する必要がある。できるだけ早く、CTO候補を確保してブレーントラストメンバーに加えるのが良い。

  

一般に、テクノロジスト達が財務スタッフの苦労がわかるようになるには、相当の年月を要する。製造企業にあっては、他方、財務スタッフでも、市場と)テクノロジーのことが解らないと事業戦略を推進する三つのキャッシュフローである業務キャッシュフロー、投資(資本)キャッシュフロー、財務キャッシュフローを円滑かつ挑戦的にマネジできない。CEOのブレーントラストでは、実施計画の策定にあたっては、先に示した開発投資キャッシュフローモデルを使い、ROEをめぐって丁々発止の議論をやり、最もありうべきモデルだけでなく、悲観的(グレイ)モデルと楽観的(バラ色)モデルも検討する。これはエマージングニーズをどう捉えるか、市場認識の共有に巾をもたせ、開発投資の加速/減速判断、上・下限値の修正の条件判別に備えるためである。いずれにしても、エマージングな市場に対する共通認識こそ重要なのである

                                            つづく

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      6.4.先行リサーチシナリオを描く(2017年第31回)   

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先行リサーチであれ、実施計画であれ、商品開発プロジェクトを動かせば、直ちに費用が発生する。この費用は全てキャッシュで発生する。事前に予定することはできるが、しばしば、非常に高額である。

 

厄介なことに、すぐにキャッシュは作れない。商品開発は、技術革新が大きな比重をもつイノベーションで、ちょっと油断していると、「花形商品」であったものが、5年から20年位の間にまったく市場ニーズの無い市場と向き合っている商品に成り下がることがある。2007年にアップル社のiPoneが登場すると、在来型の携帯電話は市場価値が低下し、なかには撤退したり、身売りをする企業まで現れた。

 

イノベーションとは、付加価値生産性を革新することの総称をいう。全てのイノベーションは、その成果が計算できるようになるまでにタイムラグがある。改善でも、商品開発でも同じである。キャッシュだけが発生し、リターンがまだ計上できない状態がある。したがって、市場ニーズが変化する前に、誰にもエマージングニーズが眼に見えるようになる前に、先行して成功させなければ意味が無い。

  

 企業に所属するテクノロジストは、エマージングニーズの変化に非常に敏感であると共に、それに対応する自身の活動が、いつ、どういうキャッシュを発生させているかを熟知している人のことである。同時に、発生したキャッシュが成果物を産み出し、その成果物によってリターンキャッシュ(ROE : Return On Equity : 自己資本収益率)が得られる仕組みを熟知している人のことである。  通常、企業活動の成果は、損益計算書(P/L)や資産と負債のバランスシート(B/S)、その他で現される。これらはノンキャッシュと呼ばれ、ここからはキャッシュの状態は解らない。

  

 キャッシュの状態を解るようにするため、業務キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの三つに分けてマネジされる。業務キャッシュフローとは、現在の生業としての商品の販売代金の回収、材料・部品などの仕入れ代金決済、生産に係る直接費用支払、人件費支払、諸税納付、旅費/移動費/運搬費支払等々の現金による入/出金を、P/LならびにB/Sにリンクした形式で表示したものである。もっぱら生産・販売に伴うキャッシュの動きを表わす。いいかえれば、現在の生業商品のPDCAサイクルをキャッシュの流れで捉えたものである。一決算期を超えるPDCAサイクルは、隣接した前後の期に跨がるものに限定し把握し、設計や試作のような開発/イノベーションのためのキャッシュは含めないのが原則である。(たとえば、建築やプラントのような大型構築物商品の場合には、それぞれ業界特有のやりかたがある)。

p font class="mpm"> 開発/イノベーションのためのキャッシュフローは、投資キャッシュフローとしてマネジされるべきである。投資キャッシュフローの計画が明確で、なおかつ、成功期待確率が高いとCEOが信じられないときには、そのような計画はCEOの承認は得られない。

  

 開発/イノベーションのために必要なキャッシュは、内部留保から充当されるのが最も望ましい。事実、内部留保は、企業の将来の発展のために一時的に留保された宝物なのだから、将来の主力商品開発のために使われるべきである。

 会社は、将来の次世代主力商品と次世代のテクノロジーの開発のほかに、現世代の市場地位を維持し続けるための「金のなる木」・現在の主力商品ファミリーの強化にもキャッシュが必要である。よく起こりがちなことは、AT(Additive Technology)主題、CT(Complementary Technology)主題とBT(Breakthrough Technology)主題の間で、キャッシュの奪い合いである。有限なキャッシュの配分である限り、CTOの裁量に従って貰うしか無いのであるが、CTOは担当プロジェクトリーダーとよく話し合って不満が残らないようにすることである。ATやCT主題の担当者達には、「花形商品」、「金のなる木」を開発して来たという勢いがあり、現在の内部留保は自分たちが産み出したと言わんばかりの自負がある。しかし、この自負心は殆どの場合、誤ったモティベーションによることが多い。「花形商品」や「金のなる木」を産み出した最初の提案者が誰で、決定的なアイデアを出したのが誰かが明確でない場合、それらの貢献度が正しく評価されていないと、自称功労者が群雄割拠する。「花形商品」や「金のなる木」は担当事業部門の数多くのイノベーションの集積なのである。特定の開発部門の功績は、プロトタイプを作ったことに留めるべきである。

 BT主題については、CEOとCTOの信頼関係・意思統一は極めて重要になる。ハイテクを売物にする企業の場合、CEOはテクノロジストでなければ務まらない。何故なら、経営上の重要決定は、全て高度なテクノロジーの問題を含んでいるからである。いかに高度のテクノロジスト経験のある両者であっても、得意とする専門領域にはずれがあったり、懸け離れていたりする。さらに、両者の専門領域から懸け離れた、有力なBT主題の提案があったときに、この主題に対するエマージングニーズ認識を共有するには、相当の努力と解決を探索するためのルールとマナーが必要になる。結論は、両者で協力して、将来のCTO候補を育てること、必要ならリクルートすることについて、予め明文の覚書を残して置くことである。CTOに、執行役員の利益相反に係る不正でもない限り、CEOはCTOを首にしてはならない。

  

 内部留保だけでは投資キャッシュは十分ではない。次世代主力商品と次世代のテクノロジーの開発が成功し、市場投入に漕ぎ着けるには、大規模な生産設備や新工場の建設、新しい生産テクノロジーと新しいソフトウェアプロダクツの同時並行的な開発、それらに関わるテクノロジストの能力開発・養成・採用、新しいロジスティクスの開発、等々と投資キャッシュは巨大なものが必要になる。  長期資金借入、新株発行、転換社債の発行など、外部からキャッシュを調達するのが通常とられる方策であるが、財務キャッシュフローの領域であり、もっぱらCFOの責任で組立てられる。同時に金融市場の原理が強力に作用する分野であり、プロジェクトの成功を担保できる十分な金融資産がなければ、いかに優秀なCFOでも動きがとれない。

 会社に金融資産があるだけでは十分ではない。CFOをはじめ財務部門のスタッフから、CEO、CTO、SMOとテクノロジー部門のスタッフに厚い信任が寄せられていなければ、新規事業、次世代商品開発のためのタイムリーな投資キャッシュフローは作ってもらえない。これは、新しいテクノロジーと市場の変化を良く理解していなければあり得ないことである。次世代テクノロジーの目鼻立ちが未だはっきりしていない時機から、CEOのブレーントラストに財務部門のスタッフに入って貰い、他企業に5年から10年先行した新しいテクノロジーと市場の変化についての現実的知識を修得し、共有することに務めなければならない。そのとき、先に示した開発投資キャッシュフローモデルを使い、ある時点におけるロードマップとして知識共有の基準として使えるようにするのが賢いやりかたである。

 

一般に、リスクの概念は、人や企業風土によって、ばらばらで誤って使われることが多い。本来、リスク概念は公衆衛生分野で、ウィールスの人獣共通感染の危険確率を、感染リスクとして捉えたのが始まりで、リスクとは感染危険確率と同義語である。感染を回避するには、ワクチンの使用が有効であることが解ってから、危険回避確率としても用いられるようになった。ウィールスという危険生命物質は、種類や型が多くあり、単一のワクチンで全てのウィールスに効果を上げることは、原理的にあり得ない。インフルエンザのような感染力の強い疾患でも、流行しているウィールスを培養し、無害化して、抗体を採り出したものがワクチンである。感染リスクを回避するには、予めある型の流行を予測してワクチンを生産して蓄えておかなければならない。流行を予測するには、感染/流行経路と考えられる地域に現れる何らかの兆しに着目して、あとは因果律で予測する。こうして計算された危険確率は、十分に社会生態学的には成果を上げているが、それほど高い精度ではない。  

  

 それより問題は、金融市場関係者、財務部門の人達のリスク概念は、おおむね「企業の収益や損失に影響を与える不確実な蓋然性」という理念に立脚していて、「ハイリスク、ハイリターン」等という表現に表れているように、収益不確実性(成功確率)と損失不確実性(失敗確率)を加えると0になるという錯覚に捕われているように思える。私はここでリスク論についてページをさく気はないが、ブレーントラストにおいては、開発における失敗確率をうやむやにせず、テクノロジーの目的律による成功確率を100%にできる、判定基準と判定ルールについて、予め冷静に話し合っておくことが必要である。

  

 CEOのブレーントラストでは、実施計画の策定にあたっては、先に示した開発投資キャッシュフローモデルを使い、ROEをめぐって丁々発止の議論をやることによって、目的律とか、オブジェクト指向などということが何であるかが解ってくる筈である。

 

まず始めに、What will happen(因果律による予測。こうなるであろう予測)を廃して、 What could happen(目的律によるロードマップ、秘伝の知識の新しい体系化)の探索に全力を挙げることについての、ブレーントラスト全参加メンバーのコミットメントを取付けることから始める。

 前回示した開発投資のキャッシュフローモデルのようなものを、知識の共有化の基軸とし、最もありうべきモデルを軸に、悲観的(グレイ)モデルと楽観的(バラ色)モデルも検討する。これはエマージングニーズをどう捉えるか、市場認識の共有に巾をもたせ、開発投資の加速/減速判断、上・下限値の修正の条件判別に備えるためである。  いずれにしても、エマージングな市場に対する共通認識こそ重要なのである。その核心となる未踏テクノロジーと要素未踏テクノロジーを開発できる成功確率の見通しはどうか。どのような新しいアイデア(リサーチクエスチョン)を想定しているかである。

 

次回は、目的律をもっと具体的に考えてみよう。

                                            つづく

 

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