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≪ビジネス/ものづくりお役立ち市場 マガジン  vol. 008 ≫


7 先行リサーチシナリオ目的律と因果律

      7.1.目的律の世界 2017年号(第32回)

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

「全ての出来事には原因がある」という原理的な考え方を因果性(因果律)という。また、「原因と結果の関係性」の意味も因果性と呼ばれる。英語でも、どちらもcausalityと呼ばれている。

古代ギリシャ以来、人々は、自然にも社会にも、その内部に変化する能力が秘められていて、その力(要因、原因)が変化という結果をもたらすと信じて来た。とくに西欧では、産業革命以後の広い意味でのモダン(近代合理主義)の世界で、人々は因果律を信じて、資本主義の原理に基づく文明を進化させて来た筈であった。しかし、いつの間にか一見モダンでありながら、じつはそうではない新しい時代への移行が始まっていた。SFアニメで言うところのワープのごとく、新しい世界観の中へ滑り込んだ。その過程で、因果律は多様化し、複雑化され、歪曲され、昔ながらの因果律に従っていると信じているにも拘らず、いうなれば「目的律」の世界の中にひきずりこまれていた。

 

日本では、近代合理主義以前から、仏教の「因果応報」の教えが人々の経験則の世界観を縛っていたので、モダンの因果律には、はじめからバイアスが懸かっていて、歪曲が容易であったとしてもおかしくない。しかし、これはマイナーの歪みであった。

  

人々が近代合理主義の原点と考えるデカルトも、古典物理学の原点とされるニュートンも、「自然にも社会にも、その内部に変化する能力が秘められている」とする世界観を否定し、「自然は死んでおり、変化は外部から加えられる力(神の力)によって起こる」としてしまった。その後の学者達の解釈によると、二人とも体制側の人間であったため、教会との摩擦を避けたかったとされている。

にもかかわらず、物理学の世界で相対論や量子論のような現代物理学が拓けて来たとき、因果律や「部分と総体」の問題は、大きな飛躍を強いられた。この350年間、西欧的世界はモダンと呼ばれる時代、私が第3文明のパラダイムと呼ぶ時代を生きて来た。数百ページを費やして、今までとは違うテクノロジー開発の歴史を書くことができる。きっと面白い読み物が書ける筈である。科学についての面白い読み物は、すでにあった。父の書斎に会った「萬有科学大系」(全4巻)。

  

1940年(昭和15年)、小学1年生の私の心をとらえて夢中にさせた本は、たしか、@天文/気象、A物理/化学、B機械/船/航空機/自動車、C生物の進化/人体/医学のA4サイズ位、厚さ4~5cm、4卷構成の百科図鑑であった。今振り返って見ると、「科学の中に技術がある」とする当時の世界観で編集されていたように思う。実体はテクノロジー写真集/図鑑であった。もちろん大人のための本であり、そのリアリティは本物だった。 

  

西欧的モダンは、科学(サイエンス)が上位にあり、テクノロジーとは、「客観的に存在する自然法則の知識を、何らかの実用目的に意識的に適用すること」であって、新知識(発見)が実用化(発明)に先行するとする世界観の上に成り立っていた。デカルトは、モダンの、世界の本質とその秩序の公理を定めたとされる。デカルトの正統な継承者を自認するフランス学士院は、「科学とは因果性についての知識である」という定義までしてしまった。そして因果性を、部分と全体との因果関係にまで拡大して、「全体は部分によって規定される」とした。しかし現実は、そのような因果性で成り立っていないことを、たちまち暴露してしまった。

  

 

テクノロジーの革新的な開発は、必ず量産に関わるものであった。人類は、自らの生存の目的のために人口を増加させた。食料を確保する目的のために、最初のテクノロジーとして採集狩猟経済の時期より、はやくも道具の使用が始まった。第1文明のパラダイムのなかで、今日テクノロジーとしてもてはやされているほとんどのものの原型が現れている。プロトテクノロジーのパラダイムとよばれるべきで、繰り返し製作されているが誰が作ったかの記録は無い。道具としての原始共同体が現れ、農耕/植物栽培が現れた考古学的証拠が見られる。第2文明のパラダイムは、栽培農業と灌漑テクノロジーが結合して農業革命が興ったことによって始まった。共同体のなかで消費しきれない農産物の量産が富として蓄積され、共同体に富を護る能力が求められ、共同体起源の国家の形成が行われた。

  

道具の開発は、ハードウェアテクノロジーに限らず、再利用可能な設計図・コンセプト・知識・ソフトテクノロジーも文明進化の道具として活用されるようになる。第3文明のパラダイムは、農業以外の(実は農業も新しくindustryの一部に組み込まれつつある)全ての産業における量産テクノロジーの開発にかかわるテクノロジー開発を基軸に形成されるようになった。産業革命とは、産業の一部(部分であり総体でもある)の新しい量産テクノロジー確立を志向する目的律の体系化の始まりだったのである。グーテンベルクの印刷術は、知識の再利用の量産化を目的としたプロトテクノロジーであった。今日、そのプロトテクノロジーは、CADやAIによる設計・知識の体系的再利用の目的のためにさらなるテクノロジー開発が行われている。ワットの蒸気機関は、強力で安定した産業動力を供給することを目的に開発された革命的なプロトテクノロジーであった。

  

その後、一つはレシプローカルな動作をする内燃機関(ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン)開発の引き金となり、自動車産業を産み出した。もうひとつは、直接回転動作によって動力を得ることを目的とした蒸気タービン/ガスタービンの開発をうながし、大型発電機を駆動し、電気事業の隆盛をもたらした。これらの革新的な動力装置が産み出した電気エネルギー供給システムと、移動/運搬手段としての輸送用機器と輸送産業システムなどが齎した富の大きさは測り知れない。さらにいくつかの忘れてはならない産業革命の原動力となったテクノロジーがある。一つは、何億トンもの粗鋼を連続生産できる高炉の発明、二つは原油から有用な商品であるナフサ、ガソリン、ケロシン、軽油、重油、潤滑油などを分離し蒸留して連続生産できる分溜装置(潤滑油は重油からの別プロセス)の発明、三つは安定で美しい発色を得られる人工の化学的な合成染料の発明であった。ここで重要なことは、どれ一つをとっても、テクノロジー開発は、全体としての目的(結果)が明確に先行して考案され、全体の仕様が目標として定められ、そのためにどういう部分の要素テクノロジー(原因)が必要かを追求する。

  

テクノロジスト達にとって、要素テクノロジーは自分の得意とする秘伝の技能であることが多い。しかし新しい目的は、秘伝の技能であっても、それ等の寄せ集めでは実現できない。何よりも要素テクノロジー(部分)の新しい目的にあわせた体系化が必要になり、既存の要素テクノロジーでは不足、欠落しているときは、新しい要素テクノロジーを急遽開発せねばならない。因果律とは全く逆の目的律のアプローチが必要になる。振り返って見れば、テクノロジー開発は、原始のプロトテクノロジーの時代から目的律の世界のものであった。ワットは、回転を安定化するためにフライホイールをつけ、蒸気発生機の気圧が上がり過ぎないように安全弁をつけた。ワットの成功の大きな要因は、無負荷から全負荷へ、全負荷から負荷減少へと、運転時に生ずる負荷の変動に対応して平衡状態を保つ目的で、シリンダーに注入される蒸気の量を、回転速度に応じて変化させるガバナーを付けたことにある。機械的サーボの嚆矢となるものである。

  

17世紀、時計と航海と科学革命の時代と言われた当時、西欧の人々の経験則は、教会の教義とスコラ哲学によって歪曲され、モダンの原点といわれるデカルトやニュートンも妥協した。フランス学士院はデカルトを踏襲し、英国王立協会会長(1703~1727)を務め、デカルトを尊敬していたというから当然ながら、「自然は死んでおり、変化は外部から加えられる力(神の力)によって起こる」とする自然哲学が西欧に跋扈した。その結果、現実にテクノロジー開発が産業社会を変革しているにも関わらず、「自然法則の科学的知識を、何らかの実用目的に意識的・工学的に適用するのがテクノロジー」であって、テクノロジー開発が目的律に動機づけられていることは否定されて来た。

  

さらに、これは科学が進歩することによってテクノロジーが進化するとする哲学が固定化される結果を招いている。いい換えると、科学が進歩しないとテクノロジーは進化できないという歪んだ因果律の世界観である。21世紀にもなって、70億人に達した人類の大半の人々は、未だにデカルトのモダンの世界観の中にいる。とくに各国の政策立案者(政治家と官僚)や法律家達はひどい有様だ。かれらの中に、第一級のテクノロジスト出身者がいないからだろう。このことは、非常に深刻な歪みを、歴史的にも、世界的にも残してしまっている。

人類は、1万年も前から、テクノロジー開発によって文明を形成して来た。栽培農業テクノロジーと灌漑テクノロジーを結合させて農業革命を興して以来、学問的・理論的に体系化された科学的知識(know what)がなくても、新しいテクノロジーを次から次へと産み出して来た。科学的知識は、むしろテクノロジーの後から、欠落していた知識として発見されて来たのではないか。そうでなかった事例も沢山ある。しかしテクノロジー開発によって既存の秘伝のテクノロジー要素が再組織され、あたらしい体系化が行われた結果、どういう知識が欠落していたかが明らかになることだけは真実である。

次回は、目的律で何をやらねばならないかを考えたい。

                                            つづく

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      7.2.第4文明のパラダイムは目的律のパラダイム(2017年第33回)   

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

 現代は『資本主義の終わりの始まり』の時代であるとする危機的現状認識が、はっきりと現れ始めている。水野和夫の『閉じ行く帝国と逆説の21世紀経済』(2017)『株式会社の終焉』(2016)『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014)等。 これらはベストセラーにもなっているが、同種の本はAMAzoNで見ると2010年 以降に出たものだけで5o冊を超えている。欧米などで書かれたものを加えると 150冊に及ぶのではないか。水野和夫は、三菱UFJモルガンスタンレー証券チー フェコノミスト、民主党政権の内閣府大臣官房審議官などを務め、榊原英資との 共著『資本主義の終焉、その先の世界』や『国貧論』などを含め、マクロ経済、 国際金融の専門家である。

  

 この種の終末意識は、なにも昨日今日始まったことではない。しかし、本来、 資本主義の原理を美化し、神格化して来た体制側のエコノミストの混乱を露に していることに注目すべきであろう。この種の危機意識の潜在的出発点は、計算 機械や通信機械のための電子デバイスとしてトランジスタ(1948)の発明と集積 回路(1960)の発明によって技術革新の競争に火がついたことと、当時の安全保 障環境(東西冷戦)によるものであったといえる。

  

 テクノロジーとビジネスと法律と政治の四極を巡って、世界は複雑な動きを 顕在化した。

1960年から2010年までの50年間に、特許出願件数は指数関数的に増加した。 これは、基本的にテクノロジーイノベーション(技術革新)が極めて活発に行わ れた結果である。しかし、集積回路の特許は、係争を棚上げのまま、米国十数社 にライセンスされ、その産品は、1960年末まで全量をアポロ計画とミニツトマ ンミサイル配備のために用立てられた。

積回路の特許は、ノイズのプラナー特許(フェアチャイルドセミコンダクターズ1959年7月出願)、キルビーのコンセプト特許(テキサスインスツルメンツ1959年2月出願)とも1966年に係争は決着した。集積回路製品としては、テキサスインスツルメンツのTTL  (Transistor-Transistor-Logic)によるSN7400シリーズが、ビジネス上の成功 を治めていた。

TI社(Texas lnstruments lnc.)は、人工地震波による石油探 査用計測センサーと計測機器をつくる、小さな優良会社であったが、日本のソニ ーと同時期、ベル研究所が発明したトランジスタ特許のライセンスを受けて、早 くから半導体デバイスの開発・生産に着手していた。米国全体では十数社によっ て、大量のトランジスタが生産されたが、現在でも半導体メーカーとして生残っ ているのはTI社のみである。

  

 TI社をはじめ各社のテクノロジー開発における目的律の理念を誤った企業は、 ビジネスの世界から退場して行った。じつは、目的律によって先端テクノロジー が開発されるようになったのは、二つの大戦の時期であった。第一次大戦時に は、正面装備としての航空機、潜水艦、戦車や確率兵器と呼ばれる重火器などの 急ピッチの開発が行われた。第二次大戦時に、目的律が最もドラスティックに現 れたのが、原子爆弾の開発である。戦時においては戦争に勝つという目的が最優 先課題になるため、テクノロジー開発への政治の介入が当然のこととして行わ れ、目的律の指導理念になってしまう。しかし軍事への財政投入は、1円.の富も 産み出さない。破壊力を蓄積しているだけである。そうこうしている間に、核保 有国が持つ原爆の総数は15、000発にもなるという。 GDPの35Sにも昇る軍事費 を何年にもわたって続けて来たソ連は、経済の破綻から国家の崩壊に至った。

 

 富の生産を伴わない目的律は、経済の原理を破壊することを学習すべきであ った。目的律の正しい指導理念は未だ確立していない。

「郵小平の黒い猫」が世界に敵麗し、金融市場が巨大化する中で、エンロン(C02排出権取引に絡む不正) やリーマンブラザーズ(金融債権の詐欺的債券化)が売り出した噴飯ものの金融 商品が破綻して、世界中が大きな損失を被った。

  

 これ等に対して、半導体とコンピュータに対する潜在需要と高集積化ニーズ には、非常に強い危機感が、ビジネスと政府の共有するものとしてあり、テクノ ロジーセクターに圧力がかかっていた。朝鮮戦争と東西冷戦環境下で、電子機器 の高信頼度化と高集積度化は喫緊の課題であった。さきに、1960年末までに生 産されたICの全量をアポロ計画とミニットマンミサイル配備のために用立てら れたと書いた。

そうすると、アポロ宇宙船やICBMの軌道計算を想像しがちであ るが、事実これらの計算には、三重系のシステムが用いられていたから、一つの 指令センター毎に、24時間常時、4台の超大型コンピュータが運用態勢にあっ て、ケネディセンターやマウントシャイアンのセンター以外にもアラスカ、カナ ダ、カリフォーニアのレーダーサイトがあり、これだけでも大量のICが必要に なる。国防総省の真の関心は、プロジェクトやロジスティクスのマネジメントの ためのコンピュータをいかに確保するかにあった。特許係争は法律家どもに任 せて、特許料の精算は決着がついてから精算するというビジネスデシジョンを して、国防優先でとにかく国防プロジェクト用のICを供給しなさいという政治 的圧力によって決着への道が拓けた。日本へのライセンス供与は1966年を過ぎ てからようやく理不尽な条件がなくなり、ビジネスベースによることが可能に なった。

  

 しかし日本の半導体業界は、さらに日本の産業界は、この時をもって、テクノ ロジーとビジネスと法律と政府(通商産業省/当時)の四極を巡る日米競争に巻 き込まれて行く。

  

一方で、19世紀中半から20世紀前半にかけて、日本は、産業革命の遅れを取 返す産業立国にあたって、欧米が、そろそろ自身の失敗を修正しようとし始め 植民地主義政策を誤って手本にしでしまった。その中で、テクノロジー開発の 的律の理念も健全には育たなかったことは明らかである。航空母艦を後回し 強化、重装備化が後手にまわった。米国が、早くからスーパーチャージャー付 のエンジンを実用化していたのに対して、日本では、そのアイデアは、燃料の 駄として顧みられなかった。内燃機関の性能(出力)は、単位時間当り、より 量の燃料を燃やすことによって得られる。とくに1万メートルもの成層圏で 出力を得るには、酸素濃度を高める目的で必須のスーパーチャージャーを無 していた。

  

 20世紀中半以降、もしくは第2次大戦後の復興過程で、第2次大戦終結のた めにとられた、戦勝国間の国際政治力学と、その結果導き出された地政学的リス くを過小に見積もった便宜的な処理のまずさによって、東西冷戦を招き、その大 きな対立図式の下で、多くのやっかいな地域紛争が一気に火を噴いた。中東で は、イスラエルの建国を巡って中東戦争が興り、これを端緒として、21世紀に おいても最大の不安定要因となっている。中国は内戦状態となり、あっけなく 1949年に中華人民共和国が成立した。そういう国際環境の中で、朝鮮戦争がお きて、経済復興の面では日本は、他国の不幸の引き換えに僥倖に恵まれたが、そ の中で、産業廃棄物の無分別な排出・投棄で、1950年代にはいると、大気汚染、 河川や海洋汚染の被害が生じた。はじめは水俣の有機水銀の垂れ流しが目立ち、 チッソだけが槍玉にあがっていたが、気が憑いてみると、全国津々浦々に環境汚 汚染が広がっていて、公害列島などと言うことばすら生まれた。

  

 いま、われわれは、「郵小平の白い猫と黒い猫」を誤解していたことに気が着 き始めている。郵小平の意図とは別に、中国では黒い猫が趾麗しているように見 え、かつてソ連がGDP比35%の軍事費で、経済を自己破壊させた道を進んでいる ようにすら見える。

私は、『資本主義の終わりの始まり』という危機感ではなく、『テクノロジーと 産業と法律と政治の四極』における目的律のアンバランスが心配である。

                                            つづく

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